お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


 平民街を抜け、更に貴族街もどんどん奥へと進んでいく。平民街と違って、貴族街は道幅が広い。馬車で移動する人が多いからだろう。平民街では大通りしか通れない馬車が、二台すれ違うこともできる。
ロザリーは感心しながら窓の外を眺めていた。レイモンドは普段乗ることのない豪華な馬車に居心地が悪そうに小さくなっている。
やがて馬車が止まり、ケネスはシルクハットをかぶり直してこちらを向いた。

「さて。ここがうちのタウンハウスだよ。ようこそ」

手を引かれて降りたロザリーは、その素晴らしい建物に目を奪われた。
アイビーヒルにある屋敷より敷地こそ狭いが、庭の木々は見る人の視線移動まで計算されているように、玄関まで何かしらの花が咲いている。
灰白色の石で作られた外壁は、素材が歴史を感じさせつつも、隙間にコケなどが生えることもなく、綺麗に掃除されている。玄関には木彫りの細工が施されており、伯爵家の紋章がステンドグラスとして中央に円形にはめこまれていた。

「おかえりなさいませ、ケネス様。お客様もようこそお越しくださいました」

出迎えてくれるのは、四十代くらいの執事だ。ぴしりと伸びた背筋をそのまま会釈しつつ、ちらりとロザリーとレイモンドを見て怪訝そうな表情をした。
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