お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。
茶色の髪の美しい女性が、階段を駆け下りてくる。
顔つきはケネスとよく似ていた。ぱっちりとした目に軽く頬を染めて、同じ女性であるロザリーも目を奪われる。

「クロエ!」

飛び込んできた彼女を、ケネスは両腕で抱きとめる。
ロザリーは驚きつつも彼女をじっと見つめた
年はロザリーよりも上に見える。だが、兄に飛びつくといった態度は子どもがするもので、そう考えれば見た目よりは幼いのかもしれない。

「クロエ。伯爵令嬢がはしたないよ。ロザリー、俺の妹だ。クロエ・イートン。十七歳」

「はじめまして。クロエと申します」

クロエはケネスから離れ、ドレスの両脇をつまんで淑女の礼をとる。さっきまで子供のようだったのに、一瞬で気品にあふれた令嬢の雰囲気をまとった。
柔らかそうなほっぺに、くりっとした瞳。はっと息を飲むような美少女だ。
ケネスに妹がいるなんて知らなかった。おそらく、ずっとタウンハウスで暮らしているのだろう。アイビーヒルでは一度も見たことが無い。

今日のロザリーの服は、若草色のワンピースだ。まるきり作業用で、伯爵家への訪問にふさわしい格好ではなかったが、精いっぱい礼だけは尽くそうと腰を屈めて挨拶をした。

「初めてお目にかかります。ロザリンド・ルイスと申します」

「ルイス男爵家のご令嬢だよ。アイビーヒルで懇意にしていたんだ」

ケネスがロザリーの隣に立ち、補足してくれた。……と、クロエの瞳から先ほどまでの輝きがすうっと消える。
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