お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


 その日の夕食は、ロザリーとケネスにとっては馴染みのレイモンドの料理が並んだ。
イートン伯爵はまだ帰っておらず、テーブルにはケイティ、クロエ、ケネス、ロザリーの四人がついている。

「いい匂いね。とてもおいしそう!」

クロエが嬉しそうに目の前の皿を覗き込んだ。単純な牛肉のステーキだが、添えられていたソースには飴色に炒められた玉ねぎが混ぜられていて、コクのある香りだけで、パンがひとつはいけそうな気がする。

食事前の祈りを済ませ、各々口にし始める。
一口食べたとたん、ケイティの眼の色が変わった。

「これを作った料理人は誰?」

「俺が臨時で雇っているレイモンドという男ですよ。母上」

涼しい顔で答えるのはケネスだ。ケイティは美しく丁寧な所作でありながら、ものすごい速さで料理の皿を空にしていく。

「は? 臨時ですって? さっさと正式に雇いなさい」

「それがなかなか難しいんですよ」

「難しいってなんなの? 値段交渉なら好きなだけ釣り上げていいわよ」

「金で動く男なら苦労していません」

ケネスも残念そうに言う。
この分だと、レイモンドがここでくいっぱぐれることはなさそうだ。
自分ばかりが客人の扱いになっているのは申し訳なく思いつつ、とりあえずレイモンドにも落ち着く場所が決まってホッとする。

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