お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。

「最近、国王様は『アンスバッハ侯爵に任せる』の一点張りです。それを受けた中立派の議員たちがアンスバッハ侯爵派に流れています」

「過半数をひと派閥が持つのは良くないですね」

この国の政治は、貴族議会によって運営されている。
最終決定権は国王にあるが、いくら国王と言えども、議会で決定した事項を覆すことは難しい。つまり、この国で自分の政策を通したくば、貴族議員をいくら味方につけられるかが重要となっている。
現時点では、アンスバッハ侯爵が望んだ施策はほぼ議会を通ってしまう。

「それでもアンスバッハ侯爵も有能な政治家です。内政面で特に大きな問題は起きていません。ただ、私が不安に感じているのが、貨幣価値の下落です」

「貨幣価値?」

「他国での我が国の貨幣価値がどんどん下がっているのです。今他国品を輸入すると以前の倍近い値段になります。おかげでこれまで安価に入手できていた輸入作物は一気に値上がりしています」

「それは……あまりにも急な価格変動ですね」

貨幣価値が変動するのはいくつか理由がある。
例えば戦争が起きている国は貨幣価値が低い。国自体が存続するかどうかがまず危ういからだ。
政情不安に陥っている国も同じ事が言える。
だがこの国は近年戦争など起きていないし、国王と議会で二重に政治を精査する体制もとられている。
全く不安がないとは言わないが、対外的に見て政治不安ではないはずだ。

となると考えられるのは、貨幣自体に信用性がない場合だ。
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