お宿の看板娘でしたが、王妃様の毒見係はじめます。


時を遡ること二ヵ月前。
ザックは久しぶりに王都に戻り、バーナード侯爵をはじめとする彼の支援者たちから歓待を受けた。

「お待ちしておりましたぞ、アイザック様。早急に相談したいことがあるのです」

「バーナード侯爵……」

王都に戻らなければならないきっかけを作ったバーナード侯爵には顔が引きつる。政務に精力的で、朗らかで、人に好かれる人柄なのだが、若干前のめりなところは否めない。それがバーナード侯爵だ。

「まず現状をお伝えしましょう。アイザック様が療養に入られる前までは、議会のバランスはアンスバッハ公爵派と我が派閥が均衡を保ち、中立派が民衆の意見を反映させることで、政治はうまくバランスを取っていました」

「そうですね」

「それが、この一年の間に均衡が崩れていったのです。アイザック様が議会に顔を出さなくなったことにより、第一王妃の兄であるアンスバッハ侯爵を立てる者が増えていきました。議会では徐々にアンスバッハ派の意見が通るようになっていきました。加えて、国王様は国政への意欲を失っていらっしゃるのです」

「父上が?」

王都に戻ってから、ザックは父親とふたりきりで話していない。
長い療養期間をもらった礼は伝えたが、彼からは心配するようなそぶりも何もなかった。
以前から優しい父ではなかったので、そんなものかと受け入れていたのだが。
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