夜をこえて朝を想う
社用携帯の履歴を全て消すと、電源を落とした。

家に置きっぱなしだったプライベート携帯には1件のメッセージ。

『ちゃんと、話せよ。』

吉良くんからの。

今なら梓の気持ちも分かるなぁ。

そっとしといてほしい。

特に、彼を連想させるものは、つらい。

余計な事をしていた。

それに

返事も返せなかった梓の気持ちも。

こうなって初めて、分かった。

梓が浜川さんに癒されていた理由も。

ごめん。

もう、全然ダメだな。

恋愛も、人間関係も。

どこでどう間違えたのか。

波打ち際に、打ち上げられた海藻のように

1日を過ごした。

あ、この例え…うまいな。

はぁ、もう。

心機一転…

新しい職場。

あと、2週間、か。

次は、年下狙おう。

そうなると“脱皆川”作戦は遅くなるだろうけど

“脱海藻”作戦にはかえられない。

自分から動こう。

海藻のように、流されず

サメのように

…サメって…肉食?

ジョーズ…

海の食物連鎖のトップ捕食者って何だろう。

どうでもいい事を調べた。

幼児向けサイトだったのか

“大きい魚”だそうだ。

大きい魚になろう、次は。

こんなところで、うちひしがれてないで。

うちひしがれながら、翌日に空きのある美容院に予約した。

ベタだけど。

発想が稚魚だけど。

海藻からは脱出出来る。

予定を入れないと、ずっと海藻だ。

部屋の片付けもせずに。

ソファーに寝転ぶ私の15センチ前には段ボール。

つまり、段ボールの景色を見ながら海藻。

片付けないと、もう半袖でもいい季節だ。服がない。

浮かんでは消える

浮かんでは消える

彼の笑顔と

身体に残る感触。

温もりは、とっくに消えたというのに。

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