夜をこえて朝を想う
第18話

side S

「食事、どうする?」

そう聞くと、珍しく即答してきた。

「あの、初めて会った時に行ったとこ!」

「ああ、いいね。何ならホテルも取れば良かったな。」

「それは、いいよ。誰に見られるか分からないし。それに…そんなにしょっちゅう泊まるとこでも、ないよ。」

誰かに見られるというのは…

まだこの前の事を気にしてるのかもしれない。

「そうか、じゃあ…行こうか。」

食べて、飲んで、笑う。

「何だ?今日は妙に明るいな。」

「へへ、今日で区切りがついたんだ。」

忙しいって言ってたな。

「俺も…時間取るようにする。もう少し。」

そう言うと、やっぱりちょっと引っかかるものの

嬉しそうに微笑んだ。

「今日も泊まって行くだろ?」

俺の言葉に頷いた。

「でも、朝帰るね。」

「はあ?準備持ってこいって…」

「あのさあ、家そこなのにわざわざ荷物持って会社行くの、おかしくない?」

確かにな。じゃあ、先に荷物取って来させれば良かった。

「ああ、まぁ、そうだな。じゃあ、一旦帰ってから出かけるか。ピクニックでも。」

「あはは!清水部長のピクニック!めちゃめちゃお父さん感でる!」

お父さん…まぁ、なっててもおかしくない歳だ。でも、俺の歳でもせいぜい小学生前くらいの…まぁ、いいか。

「…悪かったな、老けてて。」

「そんなところも、大好き。」

そう言って、彼女から唇を合わせてくる。

「珍しいな、湊が…」

何度も。何度も。せがむように。

そして、何度も好きだと

俺の腕の中で言った。

湊が好きだと言ったのは、初めてだった。

「清水部長。」

「やめて、それ。」

「知らないもの、私。あなたの名前も。」

「…嘘だろ?」

「教えてくれなかったじゃない。」

そう言われて、気付いた。

あの時、吉良君が呼んだのをお互いそのままに…

今日まで来た。

慣れてしまっていた。

彼女から“清水部長”そう呼ばれる事に。

会社で、そう呼ばれる事に違和感がないように…

だけど…湊は俺の部下でも…あの会社の社員でもない。

全く、関係がないのだ。

恋人だ。

俺の。

それなのに…

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