夜をこえて朝を想う
第6話

side S

「…体育会系かよ?」

「…え…何かおかしかったかしら?」

「いいね。じゃ、乾杯しようか。何に乾杯しようかな。」

「新年に。」

「OK、乾杯。新年に。」

そう言ってグラスを合わせた。

「じゃあ、俺も今日は中条でいこうかな。…麗佳とどっちがいい?」

「…ご存知でしたのね、下の名前。」

「名刺、貰ってるからね。…渡してるしね。俺の下の名前は…?」

「……。」

「社会人としても…覚えて欲しかったなぁ。それから…こうやって食事に誘ってるのに…なぁ。」

その、興味の無さに…少々虚しさが過る。

「ご、ごめんなさい。本当だわ。失礼…。」

彼女のテーブルに置いた手を下からそっと持ち上げるように触れた。

ごく、自然にそうしてしまった事に…

それが、何を意味するのか。

「ショックだな。って…。」

そう言って、そのまま見つめる。

「罰として5秒は見て貰おうかな。」

止めておけば良かった。

5秒見たら、“惚れる”彼女が言っていた通り。

俊之(としゆき)ね。覚えてね、麗佳。」

そう言って…手を離した。

そうか…なるほどね。

俺も…か。

「率直に聞くけど、出来た?恋人。」

つまり、彼と…吉良君と何か進展が、あったか。

「…出来てたら、ここには来てないんじゃないかしら。」

「それは…少なくとも、異性だと分かって来てるって事でいいよね?」

「…分かってるわ、最初から。男性でしょ?」

この言い方では通じない。ならば、これは?

「…向き合いたい人は?」

「……。」

自覚…は、してるのか。

「…なるほど。まぁ、イケメン揃いの会社だもんなぁ。」

「そ、それは…。」

「勘はいい方なんだ。」

からかい過ぎたのか、無口になって

ちびちびながら、酒を飲み続けている。

弱いんだったな。酒。

「そろそろ、殴られる?」

「Mなの?」

…殴られたそうか?俺。

面白い子だ。

「…どっちかと言うと。個室にしといて良かったよ。」

「やめてよ、もう。」

そう言って、彼女も笑った。

可愛い顔で。

ああ、でも…

「酒…飲むなって意味分かったな。」

上気した頬に、潤んだ目、少し開いた綺麗な唇から漏れる、呼吸すら色っぽい。

「酔ってないわよ。まだ、5センチくらいしか減ってない。3杯くらいは行けるの。」

「うん、そっか。そうだな。今日は1杯にしとこうな。」

子供相手のように、言った。

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