夜をこえて朝を想う
ムキになった彼女が

「酔ってない。」

そう言う。

「覚えてないって言われたら困るから。」

「何を?」

「もう少し、早く誘えば良かったかな。」

「なぜ?」

「…出遅れたかなぁ。」

そろそろ、自分の事を。そう、思ってたのに。

駄目だな、自分の事は後回しで。

まぁ、それでいい。

不思議そうな顔で、俺の目をじっと見た彼女に言う。

「そのまま…名前、呼んで?」

「俊之…さん…。」

暫く、そのまま

どちらも動かなかった。

「…このままにしたくない。」

「…え…」

「はっきりと言わないと通じないタイプだったね。」

「……。」

「特別になりたいと、思ってる。麗佳の。」

「つまり…。」

「恋人だね。」

「……。」

「…何に悩んでるか、知ってるよ。…だけど…言わずには終われないからね。」

そう、さっさとね。

「それは…」

「うん。ま、それ知ってて言った。そして、知ってて欲しくて言った。こっちの気持ち…もね。」

「次誘って麗佳が来たら…俺の気持ち知ってて来たって事になるんだからな。」

彼女に委ねるように

そう言った。

「ん、じゃあ楽しく飲もう。」

彼女がようやく1杯飲み終わった頃、温かいお茶を渡す。

「…ありがとう。」

そう言って俺を見上げる。

「…うん。」

「もう1杯。」

「ダーメ。」

「何で?」

「帰せなくなるよ?」

「…酔って…」

「うん、ないない。」

「飲むなって言われる意味がわかんない。そんなに絡んでる?」

ある意味ね、絡むよりたち悪い。

「男と飲むなってだろ?」

「そう。なんで?」

そう言って、近づいてくる。無警戒に。

少し笑って目を逸らす。

「信用できる奴だけに、すべきだね。」

「だから、何…」

「恋人に聞きなさい。」

「な!いないの知って…」

「出来たら、聞きなさい。」

「……。」

「俺が教えてもいいなら、教えるけど?」

「……それって…」

「そう。」

だから、彼に…聞いたらいい。

「分かった?」

「……はい。」

「よろしい。」

分かったか。通じたか?

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