夜をこえて朝を想う
第8話

side S

「お、今日は君ね。」

その週、来社したのは中条さんの方だった。

「お世話になります。」

いつもの通り、各システムのチェックに加えフォロー等。

それから商談ルーム。

仕事の話が一通り終わると、言った。

「さて…そろそろ3回目の食事にでも、行く?」

「あ…えっと…。」

明らかに戸惑う彼女に笑う。

「分かりやすいなぁ!君達は。」

…俺の言葉に怪訝な顔。

ああ、“君達”って言ったからか。

「あのね、俺の前で…その顔は失礼じゃない?」

「私…ごめんなさい。」

「謝らないでね。」

「あ…ご…」

俯く彼女に言った。

「知ってた。」

「私の…気持ちを?」

「それだけじゃない。」

ゆっくり、説明した。

「この年でさぁ、年功序列ならともかく…会社の部長職となると結構必要なんだよね。洞察力。もう、心理学かも。」

説明を続けた。

「つまり…」

彼女を見た。

「誰が誰を好きで、誰が誰とデキてて…あそこ、不倫してんじゃん。とか…知りたくない事も分かってしまうねぇ。」

「凄い…。」

「はは!お見合いババアだよ。ある意味、あっちこっちくっつけてる。もどかしくて。」

「ジジイじゃないの?」

「あはは!そこか~。」

いや、面白い。

「麗佳の、そういうところが好きなんだ。」

「え…あの…。」

目を見てはっきり言った事で、彼女の動揺が伝わった。

「だからね、知ってるんだ。麗佳が、誰を好きで…その彼も…誰を…好きか。」

「…どうして…。」

「部長職だから、俺。」

「…どうしたら…」

「好きだって言ってくれる?」

「え…」

「君の口から。」

彼女は、一呼吸おくと

「好きです。」

そう言った。

「吉良くんが、好きです。」

震え出す手…唇…

頬を伝って…落ちる…涙。

ハッキリとした意思。

「泣くなよ…。」

書類の束で彼女の顔を隠した。

俺に、申し訳ないという気持ち

それに…

彼への溢れる想い。

言うんじゃなかったか、俺の方のは。

あっちを焚き付けるには有効だったかもしれないが…

悪かったな。

泣かせたいわけじゃ、なかった。

ハッキリ自覚しているなら、それでいい。

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