お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「……ごめんなさい! 私のことは、忘れてください!」

「澪!」

彼の腕を振り払い、大きく頭を下げると、ソファの上に置いていたバッグを抱きしめて玄関へ走り出した。

「待って、澪!」

リビングの出口のところで、追いかけてきた彼に背中から抱きすくめられる。

ズキン、と胸が痛んで、呼吸が止まりそうになった。

「なにがあった! なにを考えている!?」

私の体を正面に向けて、キスをくれようと顎を持ち上げるけれど……。

「やめてください!」

ぴしゃりと言い放った私を前にして、彼の手が止まる。

――『嫌だったら、本気で抵抗してごらん?』――

夕べ、彼が私に向けて言い放った言葉だ。

これは本気の抵抗。本気の拒絶だ。

「……さようなら」

私の言葉に、彼は今度こそ引き止めることをしなかった。

玄関を飛び出す私を無言のまま、じっと見送る。
< 66 / 294 >

この作品をシェア

pagetop