お見合い求婚~次期社長の抑えきれない独占愛~
「とにかく。係長のご紹介なんだ。断ることもできないから、とりあえず会うだけ会ってほしい」

「いや、ちょっと待って、お父さん、それちゃんと確認しないと怪し――」

「母さん、振袖出しておいてくれないか」

「ま、待ってよ! 私、お見合いなんて行かないからね!?」

会話が平行線でさっぱりかみ合わず、もどかしさしかない。

明日の朝になったら、お父さんも酔いから醒めて、そんな怪しいお見合いの話なんか、なくなってるはずだよね?

けれど翌日。私が会社から帰ってくると、部屋に振袖がしっかりとかけてあって、逃れようのない現実なのだと知った。

八重菊や牡丹、桜など、四季の花々が散りばめられた深紅の振袖は、成人式に買ってもらったお気に入りの一着だ。

まさか、お見合いで使うことになるなんて。まだ、当分袖を切りたくはないのに……。

もう本当に逃げる道はひとり暮らししかないのかもしれない。

その夜、私はベッドに座り込んで預金通帳の残高を見ながら、敷金、礼金、家具・電化製品の購入費用を電卓で弾き出して、うなだれるのだった。
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