天然お嬢様の恋はどこまでもマイペース
その夜、俺たちは初めて愛し合った。

華奢で手荒に扱うと壊れてしまいそうな爽子の体は、透き通るように白かった。
俺が独占欲の赤い印を付けるたびに、「あっ」と小さな声を上げていた。
そして、一つになる瞬間に「泰介、愛している」と言った。
この時になって、俺はやっと気づいた。
爽子は初めてではなかった。
決して女性の初めてにこだわるつもりはない。
俺だってそれなりに経験がある。
しかし、爽子は初めてだと思い込んでいた。

何だろう、この嫉妬のような気持ちは。
俺の知らない爽子がいるようで、嫌な気分だ。


「ごめんなさい」
明け方、背中を向けて眠っているはずの爽子が呟いた。

「どうした?」
「私、初めてじゃないの。以前・・・」
そこで言葉が止まった。

「言わなくて、いいよ。俺だって初めてじゃない。これから2人で時間を重ねていけばいいだろう」
「うん。ありがとう」
涙声が聞こえた。

爽子の初めてを奪った男がいると思うと腹は立つ。
どこのどいつだと問いただしたい気持ちもある。
でも、爽子にも俺の知らない過去はあるわけで、それをどうこう言うのはやめよう。
今の爽子が俺だけを見ているのならば、それでいいじゃないか。

「爽子、愛してる」
背中から、ギュッと強く抱きしめた。
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