ヴァンパイア†KISS
夜も更けてきたこのロンドン郊外の修道院で、エマは一人祈りを捧げると、胸のクルスにキスをした。

19歳になったエマの金糸の巻き毛は豊かさを増し、雪のような肌とその桃色の唇は、愛らしい人形が色艶のある大人の人形に生まれ変わったかのように可憐だった。

だが、そのエマにも何か言い知れぬ胸騒ぎがあった。

この9年、この教会で幸せに暮らしてきた自分には一度もなかったような胸のざわめき。

それと同時に、エマはその日、不思議に懐かしい気配を感じていた。

昔、10歳のころに感じていた自分を見つめる温かい気配。

……あれは、誰だったのか……?

「エマ、今日はもういいですよ。部屋に戻って休みなさい」

「はい、シスター」

エマは立ち上がると、教会の十字架の下に置かれている聖母マリアの像を見上げた。

「マリア、今夜もあなたの前で躍らせてください」

エマは黒の修道着に白のエプロンをつけ、頭には肩まで垂れる黒のシスター帽をかぶった出で立ちでマリア像に向かって微笑む。

そして、ホールドの姿勢をとると。

いつか見た「皇帝」を相手に、そのステップを踏み始めた。

軽やかに揺れる金糸の巻き毛。

桃色の唇から零れる笑顔。

「ウルフと踊りたい」

彼女の想いは、それだけだった。




「エマ、見つけたぞ……!」


「!?」





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