ヴァンパイア†KISS

天使のため息

それから10日間あまり。

毎朝、会社へ向かうかずちゃんを見送りながら、

わたしは毎夜同じ時間に屋根裏へと上るようになった。

「カレン、そこはもっと鋭く射抜くように」

デュオの声が飛ぶ。

「デュオ、このステップ難しいよ!」

「カレン、弱音吐くならやめるが?」

「デュオのいじわる…」

デュオは厳しく、でも的確にアルゼンチンタンゴをわたしに教えてくれる。

なぜこんなことになったのか、自分でも不思議だった。

『カレン、デュオ兄さんとは無理だけど、同じ母から生まれた僕となら、カレンの特殊な体でも愛し合える。抱き合うほどに、お互いのパワーを高めあえる』

シエルにそう言われたわたしは、むきになって答えていた。

『体では繋がれなくても、血の繋がりはなくても、心は一つになることができる。シエル、心が一体になったタンゴをあなたに見せてあげるわ!』

……バカ花恋。

でもわたしにもヴァンパイアの血が流れているせいか、ダンスはやっぱり大好きだった。

「カ~レン、そんなんで一体になれんの?」

窓枠に座り足を組みながらニコニコとわたし達の練習を見ていたシエルが、からかうように声をかけてくる。

「シエル!話しかけないでよ、集中してるんだから」

「は~い、姉さん」

シエルは毎夜こうして窓枠にもたれながら、わたし達のタンゴを見に来ていた。

ほとんどからかうために……。

ウルフにもエマにも似てない気がする。

一体誰に似たんだか。

でも、そのくるくる変わる表情から時折輝く太陽のような笑顔はウルフそっくりで、たまに見せる聖母マリアのような清廉な表情はエマそっくりだとデュオは言った。

確かにこうしてニコニコ笑っているシエルは、どうも憎めないところがあるんだけどね。






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