危険な愛に侵されて。



このままでは体の力が抜け、ナイフの存在に気づかれてしまうかもしれない。

仕方がないけれど強行突破だ。


左手で彼のシャツを掴み、受け入れているフリをして。


空いている右手は自分の太ももに触れ、ナイフをしっかりと掴む。



どうか地獄に堕ちますように───


そう願いを込めて勢いよく彼の喉を狙おうと思ったけれど。


「……っ」


あっさりと手首を掴まれ、それを制されてしまう。



「殺気、バレバレ」


目の前の彼は、小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら私を見つめてきて。


「……っ、離せ!あんたの命、私が奪ってやる!」
「あー、はいはい。それなら今度出直そうな」

「ふざけないで!早く消えてよ!」
「うるっせぇな」

「……んんっ」


喋るなとでも言いたげに眉をひそめたかと思うと、黙らせるように唇を塞いできて。


「……やっ、あ」

強引に口をこじ開けられ、舌を絡めとられる。
逃げようとしても逃げられない。


嫌だというのに体が反応して、その度に彼が楽しそうに笑う。


「今日は楽しませてやるよ」

その余裕な笑みに、言葉にムカついて。
きつく睨み返してやる。


「……っ、残念だけど、私の体はもう汚れてるから。別に今更あんたに抱かれたところで悔しさのひとつもない」

「でも殺したい相手に抱かれて、さらに感じるとなれば相当悔しいだろ?」


腹が立つ、悔しい、気づけば涙が頬を伝う。

< 10 / 370 >

この作品をシェア

pagetop