危険な愛に侵されて。



「へぇ。じゃあ続きはまた後でな?」


ニヤリと口角を上げて笑う彼。
悔しい、本当に悔しくてたまらない。

やっぱり彼には敵わないだなんて信じたくない。


するりと私のスカートから手を出した彼は、律儀にも乱れたスカートを直してきた。


ここで紳士を出されても腹が立つだけ。



「───絶対に奪ってやる」

その命、私が必ず。
少しの油断も見逃さない。


その傷ひとつ知らないであろう体を、心を。
痛めつけ、そして苦しめてやる。


「なら俺も奪ってやるよ」

なるべく殺気を抑えようと思い、平静を装うけれど。
やはり彼には気づかれてしまう。


「お前の心も体も全部奪って後悔させてやるから」


彼にしては真剣な声音。
いつものような憎たらしい言い方ではない。

どうやら標的にされたようだ。


後悔とは恐らく、“殺そうとしたこと”に対してのことだろう。


「絶対に奪われないから」

体は好き放題にさせられたとしても、心は絶対に奪われないと誓った。

< 29 / 370 >

この作品をシェア

pagetop