桜の花が散る頃に
「涌井君おはよ!てか君すっごいねー、さすが生徒会副会長!」

なんで夏実はこうも涌井に関わりたがるんだろ。
もしかして一目惚れとか?

てか、てっきりドヤ顔でもするのかと思ったら、涌井を褒め称えてるし。

「…嫌味か?」

相変わらず素っ気ない態度。
嫌味って何の話だ?と少し考えたが、思い当たるとこ、賭けの話だろう。
テスト勉強ですっかり忘れてた。

隣を見ると、夏実も首を傾げている。

お前も忘れとんかい。

「あのようなくだらない賭けをするなんて、僕はどうかしていたようだ。僕も結果満点を取ったわけで、実質あの賭けは引き分けのようなものだろう。お互い無かったことに…」

涌井のクソ真面目な話に、賭けの話なんてすっかり忘れていた夏実もその内容を思い出したようだ。

やっぱり頭いい癖にバカじゃん、言わなきゃ分かんなかったのに。

「あーアレね!引き分けなんてずるっこい事言わないでよー、対象は私のテストの点数だけだったよね?だから私の勝ち!」

ほら、調子乗り出した。
や、まあ面白いから良いけど。

「約束は守ってもらいます!これからはノット藍泉さん、イエス夏実ね!はい、リピートアフターミー?」

ノット藍泉さん、イエス夏実って、何だよ。
つい隣で吹き出してしまった。

「秋人、何笑ってんのさね?全部赤点の癖に…」

「え、何でバレてんの?」

「遼河先生が朝校門で言いふらしてた。」

「あんのやろ!物理しか出来ないくせに!」

俺が熱くなっていると、それに水を掛ける勢いで、涌井が言った。


「随分優秀な家庭教師を付けているんだな。それか塾にでも通っているのか?」


その台詞に、俺は思わずカチンと来た。
とことん嫌味な奴。
俺絶対仲良くしたくないタイプ。

反論しようとしたら、夏実がそれを笑い声で吹き飛ばした。

「涌井君は家庭教師つけてるの?それとも塾?」

夏実の質問に、涌井は夏実を睨んで首を振った。

「…うちは兄貴の学費が高くてそんな余裕は無い。だから、自分で勉強している。財力に頼った兄貴とは違い、自分の力で弁護士になってみせる。そう心に誓ったんだ。」

意外としっかりしてるんやな。てか、涌井って弁護士なりたいんだ、てっきり涌井医院の跡継ぎかと思ってた。
夏実は関心した様子で、偉いな、と呟いたあと、即座に涌井の目を見つめ返し口を開いた。

「じゃあさ、私が涌井君と同じように努力して満点を取った、とは考えないの?」

「あり得ないからだ。この学校で二ヶ月も授業を受けず突然現れ中間で満点を取る、そんなことは塾に通っているか家庭教師でもつけていないとあり得ないからだ。」

涌井の言いたい事も分かる、けど、

「涌井君だって休んだ分は自主勉強するでしょ?それと同じで、私だってそりゃ置いてかれたくないし自分で勉強するさね。それで満点取った事が“あり得ない”事なら、君の満点も“あり得ない”、って事になる。涌井君はさ、『自分に出来ることは他人にもできるかもしれない』ってなんで考えないの?」

夏実の言いたい事も凄く分かる…。

とりあえず言えることは、俺なんて授業受けてても全部赤点なのに、満点同士の会話についていけるはずが…

「とまあ、色々言っちゃったけど、賭けは賭けだからね!これからは夏実って呼んでよ!私も秋人も、学って呼ぶからさ!」

え、え、えええええええ

「まって俺も!?」

「え?うん。だって、学が私の友達なら、その私の友達の秋人は学の友達でしょ?」

いや、全く意味が分からない。
友達の友達は友達とか、どんな昭和な考え方だ。

同意を求めようと涌井の方を見ると、涌井はキョトンとした顔を見せた後、プッと吹き出した。

「夏実、君面白いね。僕今回の試験で君に負けない為に少し無理をしたんだ。化学が苦手でね、良ければ教えてくれる?」

「おお!じゃあ私は国語教えてほしーい!」

なぜ和やかに!?
さっきまでバチバチしてたじゃん!!

と、、りあえず、万事解決。

夏実と俺という輪の中に、涌井学という新しい歯車が入った。
俺達は今日も明日も、正しく回る。


[涌井学と夏実]end
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