桜の花が散る頃に
授業時間が終わり、へばっている学に水でも与えようと、俺と夏実は自販機がある中庭まで向かった。

「んな落ち込む事無いって。先生も鼻血くらいで騒ぎすぎなんだよ。」

慰めてはいるけど、夏実はずっと結城の心配をしている。
優しさの塊かよ。惚れるわ。

ぼーっとしたままの夏実を横目に、自販機のボタンを押したそのタイミングで、自販機の裏の水場の方で、ドゴッという凄い音が聞こえた。

自販機と自販機の隙間から覗き見ると、結城を保健室に連れて行った女子三人がゴミ箱を蹴り倒していた。

ひえー、女子こっわ。

「マジ鈍臭いアイツ。少し有名人になったからって塩谷にベタベタと気色ワリー、調子乗ってんじゃねーっつの!」

「藍泉さんが顔面にボール当てた時ちょっとスカッとしたよねぇ〜。」

「でも、たかが鼻血だよ?先生まで来るとかマジ無いわー、おかげさまでアイツから金取り損ねたし。久々にカモが学校来たっつーのにー」

あれ、この会話って、もしかして結城の事…
内容に少し驚いていたら、夏実がムスッとした顔で俺の後ろから覗き込んできた。

「…国見さん、佐藤さん、西屋さん、だよね?」

「夏実お前、よく覚えてんな。」

「よく私の方見てるからね、あの人達。」

自意識過剰じゃねーのかとも思ったが、あの三人ならあり得ないことも無いか。
あんまりいい噂は聞かないし、見なかった事にした方が良さそう。

そう思って背を向けようとした時、水場のすぐ後ろの渡り廊下に、結城らしき人影が見えた。

それに気付いたのは俺と夏実だけで、女三人は全く気付く様子も無く話し続ける。

「テスト受けにきたんでしょ?なんでアイツはテストの日取りも自由なワケ。腹立つんですけど」

「中学の時に撮ったストリップ画像、ばら撒いちゃう?大炎上待った無しだよねぇ」

「捕まるのはヤダ。第一そんなことしたらアイツから金取れなくなんじゃん?」

後ろで本人聞いてるって、ダメだって。
え、てかストリップ??
こいつらまじで言ってんの、頭おかしいじゃん。

さすがに結城が可哀想でどうにかしようかとも思ったが、どうにかする方法がなんも思いつかなくてタジタジになっていると、夏実はスマホを片手に、躊躇うことなくずんずんと前へ出て行った。

えええええなんか作戦とかあんの!?

俺の心が読めるのか、夏実は

「意気地無し。」

と俺に言い放つ。

非常にザックリと心に来たが、そう言われてもしゃーない、実際そうだ。

「国見さん、佐藤さん、西屋さん。ストリップの正しい意味をご存知ですか?」

夏実の低い声とその表情、その台詞に、その場の全員が固まった。
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