クールな弁護士の一途な熱情
「入江。まだいたの?」
その声に振り向くと、それは静だった。
静は私がまだいたことに少し驚いた様子で部屋に入ると、棚へファイルを一冊戻した。
「気づいたらこの時間で……でももうひと段落ついたし帰るから」
すると静は私のデスクの上を見て、口を開く。
「もうここまで片付いたんだ。思ったより仕事早いね」
「でしょ?やればできるんだから」
「勉強はできなかったのにねぇ」
「人には得意不得意があるんですー」
ふん、と軽口を叩きながら、私はパソコンの電源を落とし、帰るために荷物をまとめる。
「……まぁ、真面目な静見たら自分もちゃんとしなきゃって。やる気出ちゃっただけなんだけど」
本音をこぼしてみせるけれど、どこか少し気恥ずかしくて、へへ、と笑って誤魔化した。
すると静は無言のまま、棚からこちらへ近づく。座ったままの私の隣に立つと、そっと手を伸ばし、私の目にかかっていた前髪をそっとよけた。
不意打ちで近づく距離に、思わず胸がどきりと跳ねる。
って、今更なにときめいてるんだか……!
その感情が顔に出ないように必死に平然を装っていると、静は口をひらいた。
「そういえば、言わなかったんだね」
「なにを?」
「花村さんたちに、俺たちが昔付き合ってたこと」
って、自分からその話題出す!?
まさか静からその話題が振られるとは思わず、驚きを隠せない。
けれどこちらを見るその顔はいつもと変わらぬ笑顔のまま。
その表情に、彼の中では、話題に出しても顔色ひとつすら変わらないことなのだと察する。
そう思うと、自分ひとりが意識しているようで悔しい。