貧乏姫でもいいですか?(+おまけ)
それ以上の気持ちが溢れないように、そのまま奥へと進んでいくと、震えるような微かな音が聞こえてきた。

近づくにつれて、はっきりと聞こえるそれは、横笛が奏でる音。

――蒼絃さまだわ。

離れている向いの建物の渡廊の隅に座って、笛を吹いているひとりの公達の姿が見えた。

宮中なので皆と同じような黒い衣に身を包んでいるが、それでも花菜には藤原蒼絃だとわかる。

月明かりに照らされている蒼絃は、浮き上がって見えた。

一幅の絵のような美しい光景である。

花菜は格子の影に立ち、その音に耳を傾けた。

どこか切なくて、温かいぬくもりを感じさせるその音は、まるで花菜に泣きたい時は泣けばいいんだよと言っているような気がした。

ここには花菜しかいない。

賑やかな宴はいまが盛りのはずで、人が来る心配もなかった。

その場に座り、涙を指先で拭いていると、
『どうした?』と、声がした。
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