闇の果ては光となりて
溜まり場に住み着いて、気が付けば一ヶ月近く経ってた。
野良猫のみんなにもすんなり受け入れてもらえて、何気に楽しく過ごしてる。
カレーを作ったあの日は、途中で記憶が無くなり朝起きたら自室にいたという奇妙な事態だったのは記憶に新しい。
翌日の皆の視線の生暖かさに、居たたまれなかったのは言うまでもない。
総長が言うにはジュースと間違ってアルコールを飲んでしまい眠ったって話だったけど、記憶の無い間に何かやらかしたんじゃないかと、予想してる。
怖くて内容は誰にも聞けてない。
弱虫だと、笑いたければ笑えばいいよ。
でも、世の中には知らぬが仏と言う言葉があるんだよ。

霧生の彼女はあれから3回程見かけた。
用事で溜まり場を空けた霧生は、必ずと言っていいほど彼女の送りで帰ってくる。
そこから予測されるのは、霧生の用事はデートって事なんだろうね。
恥ずかしいのかそう言わない霧生は、変だ。
溜まり場に彼女が入ってくることは無い。
なんでも、総長が許可して無いんだとかで入れないそうだ。
理由は分からないけど、まぁ何かあるんだろうね。
私には関係ないから、特に気にしない事にしてる。
気にすると、胸の奥がジクジクと気持ち悪く痛むから嫌なんだもん。

「神楽、用意できたか?」
ノックと同時に霧生の声が聞こえた。
「うん、すぐ行く」
鏡で制服と髪型の乱れがないかをチェックして、学生鞄を手に急いでドアを開けた。
学ラン姿の霧生は、今日もカッコイイ。
市販の薄い水色のシャツの第二ボタンを外し、学ランを羽織る霧生の色気が半端ないんだよ。
初めて見た時は、無茶苦茶ドキドキした。
美丈夫は何を着ても格好いいが、学ランは別格なんだよね。
ミーハーな女の子みたいな事を考えながらも、朝の挨拶を交わす。
「おはよ」
「ああ、おはよう」
「今日は霧生なんだね」
「俺じゃ不服かよ」
不機嫌に眉根を寄せた霧生と並んで歩き出す。
「別にそうじゃないけど···」
「けど、何だよ」
「霧生に送ってもらうと、校門の前で女子が騒ぐから」
かなり面倒臭いんだよね。
溜まり場に住み着いた翌週から、学校へと通学は誰かしらが送り迎えしてくれてる。
学校ぐらい1人で通えると言った私に。『敵対してるチームに狙われたら危ねぇから、却下だ』と総長命令が下った。
なんでも、スコーピオンとか言う暴走族といざこざがあるらしい。
不良の世界も色々と大変そうだ。他人事に思えてるのは、私がまだ抗争とは無関係で居るからだろうな。
これからは、そうも言ってられない事態に陥るかも知れないと、覚悟はしておかないと。

「おはよ〜神楽ちゃん」
「おう」
1階に降りると霧生達と同じ様に学ランを着た光とコウに会った。
因みに、私の通う西校の制服はエンジ色のブレザーとベスト、緑を基調にしたタータンチェックのギャザースカートだ。
スカートと同じ色味のリボンを喉元で結ぶ。
結構可愛い制服なので気に入ってる。
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