闇の果ては光となりて
横揺れの少ないスムーズな運転で街道を進むバイク。
顔に当たる風の冷たさに、より一層機霧生の背中に顔を埋めた。
もう少し暖かくならないと、バイクはキツいよね。
出そうになる鼻水を、霧生の学ランに付けないように要注意だ。
そんな事になったら、後で嫌ってほどお小言を食らう事になるだろう。

まぁ、とはいえ霧生とがいい風避けになってくれるから、寒さも少しらマシだよ。
私を乗せてるから、スピードは比較的緩だから、風がキツくない。
霧生一人なら、多分もっとスピードを上げてるんだろうな。
ぼんやりとそんな事を考えながら、霧生のお腹に回していた手に無意識にキュッと力が入った。
ピクッと揺れた霧生の肩、どうしたのかと思ってると、霧生が不意に振り返った。
あ、危ないから前見てぇ〜!

「あんま、押し付けてくんな」
それだけ言うと前を向いた霧生。
はぁ? 何が言いたいんだろう。
押し付ける···押しつ·····っ···まさか。
気付いた事実に、距離のお腹に巻いていた手の力を緩め、彼の背中と距離を置く。
押し付けるつもりなんて毛頭なかったよ、本当だよ。
落ちたくないし、寒いの避けたいし、ただそれだけだったんだよ。
自分に言い訳しながらも、頬の熱は冷めてはくれない。
バイクを降りたらどんな顔をすれば良いんだろ。
途方に暮れた私は、苦し紛れに大きな深呼吸をついた。
願わくば、この心臓のドキドキが霧生に届きませんように。
霧生には、彼女がいるのにドキドキしてる場合じゃないのに、私の心臓は思う様には治まってはくれなかった。


私達を乗せたバイクは、住宅地を抜け西高へと続く長い坂へと差し掛かる。
この辺まで来れば、通学途中の生徒達の姿がチラホラと見え始めた。
低い重低音を上げ、ど派手に走るドレスアップされた霧生のバイクは、とにかく目立った。
あちらこちらから、突き刺さる視線。
野良猫の一員になって、そんな視線にも慣れたと思っていたけれど、霧生が一緒の時は妬みや嫉妬の視線が半端ないよ。
私の送迎メンバーから、霧生は外れてもいいと思うな。
メンバーの選出は一週間毎に阿弥陀クジで決まるらしい。
その阿弥陀クジに参加できるのは、立候補したメンバーで、尚かつ総長のお眼鏡に叶った人だけなのだとか。
運転の安全性や何かあった時に対処できる力の強さとかを考慮してるって、総長が言ってたような。

送迎して貰う事を申し訳なく思ってるのに、そのメンバーの中に総長を含む霧生達幹部も入ってるって言うのだから、驚きだよね。
私が一番下っ端の新人メンバーなのに、待遇がよすぎてこれでいいのかと不安になっちゃうよ。
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