闇の果ては光となりて
後1人で順番が来るって所まで進んだ私は、不意にコウの方へと視線を向けた。
コウのバイクは公園の花壇の前に停まっていて、私の方を見ているコウはバイクに背を預け煙草をふかし、時間待ちのイライラを解消してる。
もう、未成年は煙草禁止だぞ!
後で注意してやろう。
野良猫では、受動喫煙の事を考えて、私の側では絶対に吸わない癖に。
やっぱりコウってツンデレだ。
思わず口元を緩めた瞬間、コウの背後の花壇の草木が揺れた。

「えっ?」
私が声を漏らすのと、鉄パイプや木刀を持った5人の柄の悪そうな連中がコウに襲い掛かるのは同時だった。
無防備なコウの後頭部に、太い鉄パイプが落とされ鈍い音が周囲に響いた。
コウのくわえていた煙草が無残に地面へと落ちる。
周囲は一瞬にして悲鳴と怒号が響き渡った。
崩れる様に地面に倒れていくコウに、我に返った私は彼の名前を叫びながら駆け寄ろうとした。
「コウ!」
「ば、馬鹿野郎! 来るんじゃねぇよ。逃げろ、神楽!」
崩れ落ちそうになりながらも踏み止まったコウが、頭から血を垂らしながら叫び返す。
そんなこと言っても、怪我してるコウを置いてなんていけないよ。
「だって、コウ!」
「うっせぇ、俺の事はいいから逃げろ」
なんとか体制を立て直し敵と応戦しながら、叫ぶコウ。
だけど、最初の一撃のダメージが効いているのか、3人を相手にするのがやっとみたいで。

残りの2人が勝ち誇ったような顔でこちらに向かって駆けてくる。
逃げなきゃ、私が捕まったらコウの足手まといになっちゃう、そう思って踵を返して走りだす。
「おい! てめぇらの···相手は俺だ。そいつに手を出すな!」
コウの怒鳴り声が聞こえる。
殴り合う音も、地面を蹴る音も響いてる。
追いかけて来る足音に、足先から恐怖が這い上がってくる。
足をもつれさせながらも必死に走った。

そんな中、咄嗟に思い付いたのは、鞄からスマホを取り出し、ブレザーの下に着たシャツの中へと隠す事。 
前に、誰かに連れ去られそうになったらそうしろとツッキーに教えられていたからだ。
必死に走りながら、首元のリボンを緩め、シャツの上のボタンを外すと、そこから取り出したスマホを滑らせた。
リボンを元に戻し終わる頃、追い掛けてきた男の一人が私の手を乱暴に掴んだ。
「つ〜かまえた」
「離して!」
無我夢中で手を振り回すも、男の強い力には勝てなくて、どんなに暴れても開放される事は無かった。
もう一人の男が辿り着き、もう片方の腕まで掴まれる。
だめだ···もう逃げらんない。
悲痛に顔を歪め、コウを振り返る。
コウは血塗れになりながらも、残りの3人とまだ戦っていた。
ごめん···足手まといになっちゃったよ。
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