闇の果ては光となりて
メールアプリでこの場所の詳細を伝えてから、どれぐらい経ったかな?
もうすぐ来てくれるかな。
みんな、安全運転で来てくれるといいんだけど。
なんて、ぼんやりと考えてながら、監禁された部屋の片隅で三角座りをして、スマホを握り締めたまま、救出の時を待つ。
ドアの向こうで物音がする度に、ビクビクしてしまうのは、恐怖が消えたわけじゃないからだ。
それでも、ここに連れて来られた当初よりは随分と落ち着いた気がする。
霧生達が、ここに向かってくれてる事を知ってるから。
鬼夜叉の総長が到着するのが早いか、野良猫が到着するのが早いか。
これは掛けだ。
大丈夫だと思おうとしても、最悪の場合が頭を過る。

小説なんかでよくある話は、攫われて犯されて···。
うぅ···それは嫌だよ。
私まだ処女だし、好きでもない人にヤラれちゃうのは避けたい。
絶対に嫌だ。
それでも、万が一襲われたら···。
膝を抱かえ、震える身体を押し留めた。
死にもの狂いで抵抗しよう。
それでも、駄目だった時は、その時考えるしかない。
でも、私が酷い目にあったら、野良猫のみんなも傷つけちゃうだろうな。
コウなんか特に責任を感じて、落ち込むよね。

「しっかりしろ! 私」
顔を上げ、両手でパシッと頬を叩いた。
ピリピリする頬を挟んだまま、大きく新呼吸をする。
その時にならなきゃ分かんないことを、ウジウジ考えてる場合じゃない。
みんなを信じて待つと決めたなら、信じて待たなきゃだめだ。
強い気持ちを持つ者が生き残る。
うん、絶対そうだよ。
気持ちを切り替え、前向きになった私の耳に届いたのは、無情にもこの部屋の鍵の開く音だった。

ぶ···武器になる物、最後まで戦ってやる。
スマホをシャツの中へと戻し、側にあった何だかよく分からない長い棒を握り締めた。
細くて折れそうなこれは、武器になりえるのだろうか。
不安を抱えながら、ゆっくり立ち上がり壁に身を寄せた。
ドアは軋む音をたてながら開いていく。
ドキドキする心臓は、今にも破裂しそうだ。

開いたドアから入って来たのは、大きな体格のヒグマみたいな男。
同じクマでも、うちの美形の総長とは大違いだ。
あれが初めての相手だとか、最悪だ。
死にものぐるいで抵抗するぞ!

「おぉ、居た居た。可愛い子猫がちゃんと居るじゃないか」
私を見つけニタリと笑う男に反吐が出る。
「く、来るな」
よく分からない棒を両手で持ち構える。
「一丁前に威嚇するのか? 抵抗する女を食い散らかすのも一興だな」
気持ちの悪い笑い方してんな!
こいつも一回泣かす。
心のデスノートに書き込んだ。
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