相思相愛ですがなにか?
「ラクダの件、分かってんだろうな?」
お兄ちゃんは信号待ちに入ったタイミングで、私をひと睨みして約束の履行を確認した。
結婚のために大変な労力を割いただけあって、今更嘘でしたでは済まされない。
「分かってるわよ」
過去の経験から、何事も口約束だけでなくキチンと契約書を交わすのが南城家の掟となっていることを私だって忘れていない。
念押しするように言わなくても、書面もバッチリ準備してあるし、ラクダ輸入の手続きだって滞りなく終わっている。
その証拠である契約書をクラッチバッグから取り出して突き付けると、お兄ちゃんは先ほどとは打って変わって上機嫌になった。
「楽しみだな~」
能天気に鼻歌を歌いながらハンドルを左に切るお兄ちゃんからは、有能さなど微塵も感じられないからまた不思議である。
用意周到なことにラクダを引き取る牧場と飼育員まで手配済みときている。
交渉しといてなんだけど、本気でラクダを飼うつもりなのかしら。
自分の兄ながら妙なものを欲しがるものだ。
この変人っぷりがなければ、なかなか見どころのある男の人だと思うんだけど。
先が思いやられて妹として兄の将来が心配になるのだった。