相思相愛ですがなにか?
「お待ちしておりました、南城様」
約束の時間の15分前にホテルに到着すると、待っていましたとばかりに支配人が飛び出てきてお兄ちゃんの傍ににじり寄ってきた。
「伊織は?」
「既にご到着されております」
支配人はそう答えると自ら先頭に立ち、恭しくお兄ちゃんと私を顔合わせの会場まで案内してくれた。
「南城家の皆様がご到着されました」
支配人手ずから扉を開けると、そこには見事な和の空間が広がっていた。
ホテル側が用意したのは、丸窓から見える箱庭が美しい最上級の一室だった。
10畳ほどの畳敷きの和室には、漆塗りのテーブルセットが黒々と輝き、床の間には名のある作者の掛け軸、四季を感じさせる生け花が飾られており、わずかに開けられた窓からは春の息吹を感じさせるような青々とした苔の匂いがした。
部屋の意匠はもちろん素晴らしく文句の付け所がないくらいだが、私の目には霞んで見えた。
それは、オーダーメイドのスーツをすらりと着こなした伊織さんの姿が部屋の中央にあったからだ。