相思相愛ですがなにか?
「困ったなあ……」
雫ちゃんの説明を聞き終わると、伊織さんも困ったように表情を曇らせていた。
どうやら私は引っ越し初日から、とんだ災難に巻き込まれてしまったらしい。
「ねえ、もうこうなったら伊織くんの部屋で寝泊まりしたらどうかしら?伊織くんの部屋なら確か去年改装したばかりだから何の問題もないでしょ?」
雫ちゃんは現状を打開するため、さも名案のように伊織さんの部屋で寝起きすることを提案した。
「雫、いくら婚約しているとはいえ、俺たちはまだ籍を入れていないんだ。一応、体裁というものがある。同じ部屋を使うわけにはいかないだろう?」
至極真っ当な理由で雫ちゃんを諭す伊織さんに私はさらりと言ってのける。
「別に構いませんよ」
困っている藤堂家の皆さんを助けるために申し出たつもりだったが、この発言ににわかに伊織さんが焦りだした。
「あ、いや……。さすがにそれは……」
「どうせ夫婦になったら同じ寝室を使うのだし、少しくらい早まっても良いでしょう?」
今更南城家に戻るわけにもいかないし、ホテル暮らしをするくらいなら伊織さんの部屋に泊まりたい。
……というか、ぜひともお願いしたい。