相思相愛ですがなにか?

「ね?そうしましょう?」

同意を求めるように目で訴えかけると、伊織さんはしばし逡巡していた。

しかし、ゲストルームが使用できず一番迷惑をこうむっている本人にそう言われては、いくら真面目な伊織さんとはいえ了承せざるをえなかった。

「……工事が終わるまでの間だけなら」

こうして、工事が終わったらすぐに移動するという条件のもと、期間限定の同棲が決定した。

伊織さんの言質を取った私は、内心大喜びだった。

すかさず雫ちゃんにウインクで合図を送った。

“ありがとう”

バチリと送った熱視線を受け取り、雫ちゃんもまたウインクを投げ返してくる。

“どういたしまして”

ウインクの応酬は、不手際で気落ちしている伊織さんには全く気付かれなかった。

(雫ちゃんの演技はアカデミー賞ものね!!)

私はティーカップを手に持ちお紅茶を啜りながら、こっそりほくそ笑んでいた。

伊織さんはすっかり騙されてしまったが……水漏れが見つかったというのは、当然真っ赤な嘘である。

私が雫ちゃんにお願いして、口裏を合わせてもらったのだ。

(雫ちゃんに頼んで本当に正解だったわ)

作戦が思いの外、上手くいって私はほくほく顔だった。

もちろん、配管工事は予定通り実施する。

ただし、何の問題もない配管がピカピカの新品になるだけだけど。

工事費用は私持ちなので、しばらく新しいバッグも靴も買えなくなるが仕方ない。

今後の幸せな結婚生活のための必要経費だと思えば安いものだろう。

結婚式まであと、5か月。

貴重な時間を無駄にしないためにも、藤堂家に住まいを移したのをきっかけに私は積極的に伊織さんにアプローチすることに決めたのだった。
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