極上御曹司は契約妻が愛おしくてたまらない

マルタ島の風は、どうやら物を飛ばす達人らしい。舞ったのはハンカチのようなものだった。

あともう少し。
陽奈子が手を伸ばしたそのとき、体勢を崩して身体が傾く。


「キャッ!」


このままでは青いプールにドボン。もうそんな状況は免れないだろうと思われたときだった。

腰に巻かれた腕に強く引き寄せられ、なんとかその場に踏みとどまる。風に飛ばされたハンカチは、別の手によって捕獲された。


「ったく、どこまでお人好しなんだよ」


陽奈子を救ったのは、貴行の腕だった。

ハンカチを飛ばされた外国人女性は、お礼を言ってテーブルに戻っていった。


「……ごめんなさい。それとありがとうございました」


身体を反転させ、貴行に向き直る。
貴行が咄嗟に身体を支えてくれなければ、陽奈子は今頃ずぶ濡れだっただろう。

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