悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「……リリー」

 リリーとまともに会話をするのは、前にこの花畑で一緒になった時以来だ。
 リリーと出逢ったのも――思えば大事な人とは、いつもここで時間を過ごした。

 今日のリリーも、出逢った時と何も変わらず愛くるしいままで。
 私だけがあの時と大きく変わってしまったみたいで、胸がチクリとする。

「マリアに、謝らなければいけないことがあるの。……手紙のこと」
「えっ?」

 どうしてリリーが手紙のことを私に? まさか本当にリリーが――

「じゃあ、わたしは一旦離れるから……ロイ」
「はい」

 リリーに名前を呼ばれ、ロイが一歩踏み出し私の前に立つ。
 リリーは少し離れたところへ移動し、こちらの様子を伺っている。

 ロイが私をじっと見るので、私はわけがわからず何度も瞬きをしながらロイを見つめ返した。
 ロイの顔をこんなにじっと見たことなかったけど、思ったよりも整った顔してるんだなーと呑気なことを考えていると、ロイが突然頭を下げる。

「あれは――私がやりました。本当に申し訳ございません。何度謝っても許されないことだとわかっています」
「……あれって、ロイが、私の部屋から手紙を抜いたってこと?」
「その通りでございます。……本当に、愚かなことをしました。許してくれとは、言いません……」

 ロイは思いつめた顔をし、血が出そうな程唇を噛んでいた。
 私は予想外の犯人の申し出に怒りや悲しみ以前に驚きしかなく、ロイに頭を上げるよう託す。

「どうして、ロイがそんなことを?」

 私は犯人がロイとわかっても、何故か怒りは湧かなかった。
 その代わりただただ疑問だった。
 ロイがそこまで私を恨む理由がどこにあったんだろう、と。

「――リリー様の悲しむ姿を、見たくなかったのです」
「リリーの為?」

 ロイは小さく頷くと小さな声で少しずつ、何故あんなことをしたか私に話し出した。

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