悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「このパーティーは、最初からほぼリリー様で確定だというのは最初から知らされていて……リリー様はアル様に嫁ぐ覚悟を持ってお城にやって参りました。ですが気が付くと王子の心はリリー様とは正反対の貴女に向いていてもう止められそうにないところまできていた。隣で無理して笑うリリー様を見ていられなくなり、どうにかして私がリリー様の幸せを守り抜かねばならないと思った」

 私は何も言うことができなかった。
 私がヒロインだったリリーの結婚相手を奪ったせいで、ここまでロイに憎しみを生ませてしまった。
 ロイを責める資格など、私にはない。 

「そしてあの日――私は見てしまったのです。パーティー前に城を駆けて行く、貴女と王子の姿を」
「!――見られていたなんて、全然気づかなかったわ」
「それはそうでしょう。貴女達はお互いしか目に入っていなかった。その時私は絶望したと共に――チャンスだと思ったのです。何か貴女の弱みを握らるものがないかと部屋に赴き、そしてあの手紙を見つけました。そこからの流れは――貴女が知っている通りです」
「どうして、名乗り出たの? 黙っていればきっと誰にもバレずにいたじゃない――誰も」
「リリー様に気づかれました。あの日貴女の部屋の近くにいたのを見られ……リリー様は私が去った後も一人ずっと貴女の部屋の付近で何か起きてないかを探っていた。次の日事件が起きた時問い詰められ最初はしらばっくれていたのですが……貴女が行方不明になったと知った時、リリー様は泣きながら私に本当のことを言ってと訴えました」

 じゃあジェナジェマが見たリリーの姿はその時の――リリーが手紙を盗んだんじゃなく、リリーはずっと私を心配してくれていた。
 なのに、私はそんなリリーのことを――

「リリー様を悲しませない為にしたことが、結果的に一番リリー様を悲しませてしまった。何て愚鈍で……大馬鹿なんでしょうね」

 ロイは片手で顔を覆い、指の隙間からは涙がぽたぽたと零れ落ちている。
 私は腕を伸ばしロイの頭を乱暴にぐしゃっと撫でると、ロイは驚いた顔をして私を見た。

「私、ロイのこと許すわ。だって好きな子の為にやったんでしょ?」
「――何を言っているんです? 貴女はそのせいでどんな酷い目に」
「ああなったのは全部誰かのせいじゃない。半分は自分のせいだもの。それに今大丈夫なんだからもういいの――でもやっぱり一発だけ殴らせなさい!」
「いっ!」

 撫でていた手でロイの頬に思い切りビンタすると、ロイは声を上げ叩かれた頬を抑えた。
 衝撃のせいか、すっかり涙も止まっている。

「これでもう終わり。おーいリリー! 戻ってきていいよー!」
「……貴女という人は……ありがとうございます。マリア・ヘインズ」

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