悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「ほらマリア。お迎えが来たようだよ。行っといで」

 おばさんが背中を押した先には、正装姿のアルが立っていた。
 初めて見た時に着ていた、白と青を基調としたこれぞ王子といわんばかりのあの服だ。

「勝手に部屋からいなくなって――どこかに逃げちゃったのかと思ったよ。マリア」
「もし、本当に逃げたらどうしてた?」
「そうだな。どこまでも追いかけて捕まえて、捕まえ終わったら僕も君が行きたいところへ一緒に逃げるよ」
「ああ怖い。絶対に逃がしてはくれないのね」
「当たり前だろう」

 アルは笑いながら私を抱き寄せると、顎を親指と人差し指で挟み上を向かせた。
 ……これが顎クイってやつですか。キザな行為なのにアルがやると様になり過ぎて文句もつけられない。

「マリア、今日のパーティーは昨日までとは違うものにしようと思ってるんだ」
「へぇ、どんなのにするの?」
「そうだな。……僕と君の、婚約パーティーっていうのはどう?」

 私の返事なんてわかってるくせに、そうやって意地悪するんだから。

「……いいんじゃない? とっても楽しそう」

 素直な私は貴方が望む返事を、仕方ないからしてあげる。


 ――私はこれからも、マリアとして生きていく。
 正直に。好きなように。ありのままの自分で。

 そしていつしか時が経ち……私のようにこの花畑に迷い込んだ女の子がいたら、今度は私が内緒話をしたい。

 とある悪役令嬢と変わり者王子の、思い出の青い花の話を。
 


                       ~Happy End~
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