悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

 私はノエルとハロルドと一旦別れ、おばさんのところまで走った。
 おばさんは既に水やりを終えていて、今はしゃがんで花の手入れをしている。
 足音で私に気が付いたのか、おばさんは私を見るなり手を止めて立ち上がった。

「ラナおばさん!」
「マリア! ……やっとあたしのとこまで来てくれたね。待ちくたびれたよ」
「ごめんごめん。みーんな集まって来ちゃって。騒がしくしちゃった?」
「嬉しいことだよ。何にもない日にこんなに人が集まるのは久しぶりだ」

 おばさんは嬉しそうに、賑やかになった庭全体を眺める。

「マリアも無事だったし……その晴れやかな顔を見て安心したよ。昨日とは大違い」
「ありがとうおばさん。私が助かったのはおばさんのお陰だよ。あ……約束守れなくてごめんね。一緒に寝るって私から言ったのに」
「あはは。大丈夫だよ。さすがのあたしもアル王子には敵わないからね」

 私はおばさんと話しながら、そういえばここに来た日に見つけた青い花を、おばさんにまだ教えていないことを思い出した。
 リリーが踏みそうになって、私が花を庇ってリリーが転んで――ほんの数日前のことなのに懐かしい。

「おばさん! こっち来て!」

 私はおばさんの手を引っ張ると、花を見つけた場所に連れて行く。
 青い花はまだ無事に咲いていて、緑に交じりながらその綺麗な色を控えめに主張していた。

「ほら、ここに咲いてたの知ってた? ずっと教えようと思って手忘れてた」
「――! こんなとこにも……知らなかったよ。よく見つけてくれたねマリア」
「どんなに踏まれても逞しく生きてる……野生の花だからこその生命力かもしれないわね」

 喜んでくれたおばさんの姿を見て、やっと一つ恩返しができたなと嬉しくなった。
 花畑の開放日もあったのに強く咲き続けてくれていた青い花にも、感謝の気持ちが芽生える。
「……あたしがマリアに青い花の話をしたのはきっと、気まぐれでも何でもなく必然だったんだろうねぇ。王子から聞いたんだ。王子はあたしの旦那の……サムから同じ話を聞いてたって。あたし達の思い出が二人を結び合わせたなら、思い出も役に立つもんだね」

 おばさんは花を人差し指でちょんと優しく突っついて子供のように笑った後、その笑顔を私の方に向けて言った。

「もうこの青い花はあたしと旦那だけじゃなくて、マリアとアル王子との思い出の花でもあるんだ。だから今度はマリアが、自分の思い出として守っていっておくれ」


「……うん!」

 おばさんの為に守りたいと思ったものが、今度はおばさんと――自分の為に守りたいものに変わった。


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