悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「……これって」

 手紙を読み終わえた途端、背筋に冷たいものが走った。

 ――つまり家の没落を防ぐ為に、マリアをここに寄越したってことね。
 まだ十代のか弱い娘に全部丸投げした挙句、結婚できなければ顔を見せるなって、帰ってくるなってこと?
 マリアに付き人をつけないで一人で来させた本当の理由が今わかった。惨い。惨すぎる。

 ゲームではリリー目線だったけど、こっち目線だとマリアにはマリアなりにこういった理由があったってことか。
 だから王子とくっつきそうなリリーをいじめて、他の女を蹴落とす勢いでとにかく王子との結婚に必死だったんだ。
 全ての行動が結局裏目に出て“悪役令嬢”なんて位置づけされちゃったけど――悪役も大変ね。こんな状況絶望するわ。

 ていうか、じゃあ私はこの世界で帰る場所ないってこと?
 だって私ヘインズ家に思い入れないし、こんな手紙を書く家族の為に頑張ろうなんて一ミリも思わない。よって王子と結婚はしない。シナリオ的にもリリーと結婚するんだろうし。
 ――ま、何とかなるでしょ。帰れなければ街で働くとこ探して庶民になるのも全然いいし。
 ああ、ゲーム最後までやればよかったな。マリアにはどんなバッドエンドが待ち受けていたんだろう……胸が痛い話だ。

 でも、この世界のマリア・ヘインズはゲームの世界とは違う。
 だって『私』が『マリア』だから。
 誰の言うことも聞かない。私の好きにさせてもらう。

 私は招待状の下に隠すようにその脅迫じみた手紙を置きほくそ笑む。

 ――この世界のマリアの運命がどうなるか、楽しみだわ。

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