悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「あんたじゃねぇ。俺はノエル。この城の見習いコックだ!」
「なんだ見習いか。その割には随分ベテランみたいな態度の大きさね」
「見習いだからって馬鹿にするな! それに俺はお前なんかにへこへこするような真似したくねーんだよ。昨日のこと許してねーからな!」
「昨日のことって、リリーの料理にタバスコをこぼしてしまったこと?」
「そうだ。あれはあの日専用の特別な肉だったのに、お前はそれを台無しにした。みんなリリー様に食べて欲しかったのにお前のせいで――挙句の果てにリリー様の分もお前が食べたよな!? 卑しい女め……!」

 リリーがお腹いっぱいで元々食べられなかったって事実は置いといて、確かに料理を作った側からしたら怒るのは当然だ。美味しく調理した自慢の一品をノエルの髪みたいな色にされたんだもの。

「まぁ――味付けと見た目を激しいものにしちゃったことは謝るわよ。でも食べなかったのはリリー自身よ。わざとじゃないし私は悪くないわ」
「わざとだろ! リリー様だってあんな辛くされたら食べられないに決まってる! お前みたいな女が一瞬でもアル様の花嫁候補にいたかと思うとゾッとするぜ……」
「一応今でも候補者の一人なんだけど?」
「いいや。アル様にお前は相応しくない。いいか? アル様は小さな村で貧しい生活してた俺みたいな人間を城のコックとして招いてくれた。お陰で家族も毎日ちゃんとご飯が食べられるようになった。アル様は俺の恩人なんだ。お前みたいな女がアル様の嫁になるなんて笑わせるなよ!」

 随分な言われようだ。こっちだって最初から嫁になる気なんざ微塵もないというのに。

「あんたの昔話なんて私には関係ないわよ。大体相応しいかどうかはあんたみたいな使用人が決めることじゃなくて王子が決めることよ」
「だとしてもリリー様でほぼ確定だ。だからリリー様に何かしたら城中の人間が黙ってないぞ」
「ここにいる男達は口を揃えてリリー様リリー様って……あんた達がリリーの何を知ってんのよ? 本当に見た目通りか弱くて可憐で純粋な女とでも思ってるの?」

 リリーに関しては本当にその通りだろうけどね!
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