悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「ねえ見た? ハロルドのあの顔! はーすっきりした! 私を追い出そうとした罰よ」
「全く二人共、仲良くしないとだめだろう?」
「無理無理! 貴女の嫁になるとハロルドももれなくついてくると思ったら寒気がするっ!」

 本物の姑よりネチネチうるさい姑になるに違いないわ。

「……不思議だ。僕との結婚に興味がないのにここへ来るなんて」
「実際来てみたら興味が失せた。それだけよ」
「ははっ。ツレないなぁ」
「今のシュークリームだって、アルに当たってたらもーっと周りは焦って楽しかったかもしれないのに。ざーんねーん!」

 アルの顔の前で人差し指をくるくると回しながら茶化すように言う――が、アルは余裕の笑みを浮かべたまま。

「僕と一緒にいれば、僕に悪さするチャンスもいっぱい増えるよ」
「……はい? 何言ってんの?」
「マリア、君といると面白いんだ。僕の時間が許す限り、君のことをもっともっと知りたい」

 アルは自分の顔の前にあった私の手を取り、下から上へするりとなめらかな動きで撫でるとそのまま指を絡めてくる。
 触れられている手が熱くなっていくことに気づかないふりをして、私も負けじと余裕な笑みのまま握られた手を振りほどいた。

「一緒にいて悪さされたいなんて――この国の王子はとんだドМ野郎だったってことね」
「――そうかもしれないな。確かに君のその僕を見る冷ややかな目にゾクゾクしてるよ」

 アルは屈んで私と目線の高さを一緒にしてから、顔を近づけじっと私の目を見つめながら言った。

 ……やはり手強い。それにアルがドМだったなんて裏設定は聞いてないわよ!

「にしても……くくっ……」
「……?」

 見つめ合っていたアルが突然下を向き肩を震わせる。

「さっきのハロルドの顔は傑作だったな! ずっと一緒にいてあんなに取り乱すハロルドの姿は初めて見たよ! あははっ!」

 真っ赤になったハロルドを思い出して大笑いしだすアル。
 悪戯っぽいアルの笑顔を見て、私は思った。

 ――こいつ、絶対МじゃなくてSだわ。

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