悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
ノエルのシュークリーム

 四人でのお茶会がお開きになると、アルは用事があるとどこかへ行き私は自分の部屋へ戻った。

 夜のパーティーで着るドレスを鏡前で合わせながら、鏡に映る自分は先ほどのハロルドの慌てようを思い出してか自然とにやついている。
 ハロルドのあの顔は傑作だった。この時代にスマホがあれば、間違いなくムービー撮ってSNSに拡散してバズらせることに成功していただろう。
 
 あと、アルのあの笑顔。

 ――あんな無邪気な子供みたいに笑うんだ、って。ちょっと意外だったかも。

「って、もうこんな時間! 考えるのめんどくさいからこれでいいや」

 散らばったドレスの中から適当に一着引っ掴み、ボルドーのドレスを着ると思いの外自分に似合っていて驚く。
 真莉愛の時は赤系の服なんてほとんど着なかったし、着てもここまで似合わなかっただろう。
 マリアの顔立ちやプロポーションが、この大人な赤を抜群に色っぽく魅せてくれている。

 私は満足げに立ち鏡の前で一回転し、前に垂れていた髪の毛をさっと後ろへやると部屋を出て昨日と同じ大広間へと向かった。
 
 昨日はアルと花嫁候補の対面ディナー会。今日の夜からは花嫁が決まるまで連日パーティーが開かれる。
 この時間はアルと会えることのできる絶対的な時間。
 女達は着飾り自分を売り込み、アルは何人もいる女達と好きなように会話し自分の惹かれる相手を探す……って名目のパーティーで一応合ってるのかな。

 でもどうしてアルはリリーと決めていながらこんなめんどくさいことするんだろう。
 リリーとの婚約お披露目会って言っちゃうと人が集まらないと踏んだから? 自分の結婚をそんなに大勢に見せつけたいの? 王子の承認欲求どうなってんのよ。

「マリア、待ってましたわ」

 廊下の角を曲がるとドレスアップしたジェナジェマが私のことをわざわざ待ち構えていた。さすがマリアの取り巻き二人組だ。
 ジェナジェマが私の両側を囲み、三人で並んで歩くとジェマがテンション高めに私に話しかけてくる。

< 44 / 118 >

この作品をシェア

pagetop