悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

 どこにいるんだ? と周辺を見渡すと、アルではなくハロルドの近くを一人でうろうろとしているジェマを発見し危うく食べているクランベリーのマカロンを口から噴きかけた。
 ジェマはアルよりハロルドと踊りたいのか……趣味を疑う。ていうかハロルドも踊るの? 想像しただけで笑いが……

 一人で下を向いて肩を震わせていると、突然広間内にどよめきが起きる。

 アルが遂に踊り出すのかと思い顔を上げると、そこには囲まれていた令嬢達の輪から外れこちらに歩いて来るアルの姿が。

「…………!」

 隣にいるリリーの緊張が私にまで伝わって来た。
 アルは最初から、リリーと踊ることが目的だったんだろう。
 周りもそれを勘付いたのか、向けられるリリーへの視線は冷たい。

 その時、偶然こちらを見ているジェナと目が合った。

 ――あれはどうにか邪魔をしろと訴えかける目だ。ど、どうしよう。

 ここには私の無敵アイテムであるタバスコもないし、私が代わりにダンスを申し出るという手もあるけど正直踊りたくないのでそれは避けたい。増してやそんなことをしたら抜け駆けと思われ私が他の令嬢達から反感を買うことになる。
 それにアルは私を気に入っている。ここで私が無駄な積極性を見せてこいつを調子に乗らせたくもない……ああ、一体どうすれば……!

「……僕と、どうか最初に踊っていただけますか?」

 何も手が打てない内にアルがリリーの元へたどり着いてしまった。
 しょうがない。これはどうしようもない状態だったしジェナには謝って許してもらおう。

「マリア」
「……ん?」
「マリア、僕と踊ってくれる?」
「……はっ!? わ、私!?」
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