悪役令嬢、乙女ゲームを支配する
リリーはアルと一緒になることを望んでいる、とはっきり言っていた。
私がアルと結婚なんてしたら、リリーに対する最低な裏切り行為になる。
……友達だと思っている人物からの裏切り。
私が舞に裏切られた時のような、いいや、それ以上のショックをリリーに味合わせるなんて私にはできない。
だったら答えは一つ。私がアルの告白を断ればいいだけ。
私なら簡単にできたじゃない。「無理」と二文字告げて笑ってやるだけのこと。
「……何で、できないのよ」
強く握ったままだった手紙はしわが広がりくしゃくしゃになっていく。
頭でわかりながらも、私はまだ見ぬ自分にとって別の幸せの可能性を捨てきれずにいて、そのまま一睡もできなかった。
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「マリア、ちょっとお時間頂ける?」
ここへ来て初めての寝不足状態。目の下に浮かんだ隈をコンシーラーで隠し早めに部屋を出て一人朝食をとっていると、両隣の椅子にジェナジェマが腰かけた。
「マリアがこんなに朝早いなんて珍しいですわね。まさか私達より先に目覚めてるなんて」
「あー、なんだか昨日は眠れなくて」
「へーっ? ジェマ達に会いたくなくて先に一人で行動してたのかと思ってたぁ~っ!」
ジェマはそう言いながら様子を伺うように横から私の顔を覗き込む。
少し棘のある言い方に、スープを口に運ぶ私の手が止まった。
「わざわざそんなことする必要がどこにあるのよ」
「そうじゃなかったということは隠しきれてない隈を見て納得しましたわ。でも今度は寝不足の原因が気になるところですわね」
あんなに頑張って塗りこんだのに全然隠せてなかった事実にショックを受けたと同時に、この一瞬で私の顔をよく見ているジェナの鋭さにおざましさを感じる。
なんとなく二人の私に対する雰囲気が冷たいことを察知した私は、単刀直入に二人に聞いた。
「私に言いたいことがあるなら、めんどくさいからはっきり言って」