悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

 言い終わると止まったままだった手を動かしスープを飲む。
 反対に二人は全く料理に口をつける様子もなく、ただただ私の方を見ていた。

「――じゃあ聞くけど、マリア昨日一人で大広間に残って何してたの?」

 意外にもこの空気の中最初に口を切ったのはジェマの方だった。
 いつもの気が抜けるような語尾が伸びる口調ではなく、顔もいつになく強張っている。

 もしや昨日みんなを帰した後私だけが残されていたことに、ジェナジェマは気づいていたのか。

「……何の話?」
「とぼけないで! マリアだけ部屋から出て来なかったのジェマとお姉様知ってるんだから! しばらく経ってマリアが走りながら広間を出てったことも」
「それも随分神妙な面持ちで――誤魔化すということは、私達に隠さなくてはならない“何か”があったという意味で捉えていいんですの?」

 そこまで二人に見られていたなんて、あの時は動揺していて周りに注意を払ってる余裕なんてなかった。
 この状況で大広間に残っていたこと自体を否定しても通用するわけない。
 二人を納得させる言い訳を考えないと。いつもと同じように。

 ――いや、違う。いつもとは。
 だって私が今からつく嘘はリリーを守る為じゃなく私を……私だけを守る為だもの。

「あー、あれね! 情けないけど王子と話す時間だったのに話さないで勝手にしてたこととか、今までリリーと王子を妨害する為にやらかしてたことについてハロルドにめちゃくちゃ怒られちゃってさ。あんなに怒られたことなかったから怖くて泣きそうになって広間から逃げるように飛び出しちゃったのよ」

 我ながらよくできた嘘だと思う。嘘を吐きすぎて嘘を吐くことは昔から得意だ。決して褒められる特技じゃないけれど。

「王子と一緒に過ごしてはいない、とあくまでマリアは主張するんですわね」
「だって過ごしてないし。私が気づいた時に王子はもういなかったわ」
「……うぅ。じゃあ騎士団長様と二人きり……それはそれで羨ましいけど怒られてたなら羨ましくないようなでも羨ましいようなぁ……」

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