悪役令嬢、乙女ゲームを支配する

「私はアル王子をずっと見ていた。だからわかるんですの。貴女を見る王子の瞳が特別だったことも。――やっぱり最初から、私達は敵とする人物を間違えていた」
「ジェナ、そんなこと」
「そしてさっきのパーティーで確信しましたわ。王子は貴女を忘れる為にリリーとの結婚を受け入れようとしている。私達なんて見向きもされない。いいえ、最初から視界にすら入れていなかった……!」

 初めて聞くジェナの叫びは、壁の木から吹きつける隙間風と一緒に冷たく私の身体を突き刺す。

「マリアは言ってましたわよね? 花嫁の座なんて狙っていないと」
「話を聞いて。お願い。ここを開けて!」

 いくら頼んでも、二人がドアを開ける気配はない。

「私どうしても許せないんですの……自分は興味ない素振りを見せて、最後にちゃっかり幸せをかすめ取るような悪い女が」
「……自業自得だよマリア。手紙のことも、お姉様とジェマをここまで怒らせたのも」

 手探りでドアの周辺をいくら探しても中から開けられそうな鍵は見つからず、何度ドアを叩いても自分に手が痛むだけ。

「これが私達とマリアのお別れ会ですわ……さようなら。マリア・ヘインズ」

 ジェナの声を最後に、どんどん遠ざかる二人分の足音。
 
「待って、待って――!」

 声を上げ助けを求めながら差し伸べた私の手は、大好きだった二人の姿と同じように真っ暗な闇にのまれていった。

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