愛を捧ぐフール【完】
「ファウスト殿下?」

「いや、なんでもない」


 首を傾げて不思議そうに僕を見るシストに、ハッと我に返る。いけない。少し感傷的になってしまった。


「もー、ラウルからの報告聞いてなかったでしょー!」


 頬を可愛らしく膨らませるシストの隣には、いつの間にか部屋に入ってきたのか一目見て覚えられなさそうな地味な顔をした男が立っていた。


「何か大変な事でもあったのですか?」

「うーん、少し面倒な事になった感じかな」


 苦笑いをこぼすと、男は眉をひそめた。彼はシストと同じく、僕の影から支えてくれるラウルという基本なんでもできる万能な部下。シストを拾ってきた本人でもある。


 それにしても、フィリウス侯爵家の嫡男に、フォティオスに見つかったのはとても面倒だ。アルフィオにも興味を示される事になった。


 まさか、婚約していても結婚発表前にセウェルス伯爵に伴われてクラリーチェが社交界に姿を見せるとは思わなかったのだ。想定外だった。
< 43 / 285 >

この作品をシェア

pagetop