彼女を10日でオトします
 人がまばらな青梅街道の歩道をひた歩く。

 ルックの看板をくぐった頃には、ダウンのジッパーを下ろすくらい、体が温まっていた。体と地球に優しい徒歩通勤ってね。

 無駄にセンス抜群な落書きだらけのシャッターが並ぶルックとパル。それを抜けると、見えた。高円寺純情商店街。

 無意識に歩幅が大きくなる。
 知らない間に変な催眠術かけられちゃったのかも。
 今なら、俺、競歩で優勝できるね。

 「喫茶メロディ」の扉には、CLOSEの札がかかっていた。……無視。

 カランカラン。扉を押せば、軽快なベルの音。

「はよーっす」

 爽やかな挨拶をして、店内を見回す。すると、テーブルに座って、ベーコンエッグをつつくキョンと目が合った。

「おはようございます。……早いじゃない」

「うん。早くキョンに会いたくて。
あれ? 燈子さんは?」

 ダウンを脱いで、キョンの正面に座る。

「病院予約してたの忘れてたーって、貴兄と今、出てったところよ」

 何だか、キョンちゃん、ご機嫌ななめじゃない? 寝起きなのかしら。
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