彼女を10日でオトします
 あ。いけない、いけない。すっかり忘れてた。

 キョンを左腕で抱きながら、ジャケットのポッケに手を突っ込んだ。携帯を握り締めてキョンの頭の後ろにかざす。
 くっついたディスプレイと数字盤をはがすように親指を滑りいれて、二つ折りになったそれを開ける。暗闇に慣れた網膜を刺激するバックライトに目を細めながら、時間を確認する。

 授業開始から、30分経過。そろそろ頃合いですかねえ。

「キョンちゃん、ちょっとごめんね」

 そう言ってキョンの肩をゆっくり押して元の体勢に戻す。
 俺は立ち上がって、空洞から抜け出した。

 開放厳禁。だけど、授業中にいちいち南京錠は掛けない。
 これって、こなれた二、三年だけに通用することじゃないと思う。俺が一年のときも、授業中、鍵は掛けなかったと思う。

 分厚い扉の前で腰を屈めて、外の様子を窺う。

 音の距離と数を考えると、たぶん、体育館の向こう側だけを使ってドリブルシュートに励んでる。ボールが弾む音が一定の間続いて、それからゴール板にあたる音。

 今しかないってかんじ?

 うーん、後は、運勝負ってとこかしら。

 なるべく音を立てないように、ゆーっくり鉄の扉をスライドさせる。ここで気づかれちゃアウトだからね。隙間から、外の様子を見ながら……お、ビンゴ。ドリブルシュート、頑張ってね。手がやっと通るってとこでストップ。

 よしよし。こいつをこうしてっと。

 後は、何事もなかったように慎重に扉を閉めて、はい成功。

 後は、キョンが待つ、甘い空洞で待つのみ。
< 188 / 380 >

この作品をシェア

pagetop