彼女を10日でオトします
「キョン?」

 お姉ちゃんが出て行ったガラスの扉を見つめたまま、固まっていた私の視界に、たすくさんの横に倒れた顔が入ってきた。

 心配そうに顔をゆがめて。

「どうかした?」

「どうもしないわよ。私、着替えてくるわね」

 出来るだけ笑顔をつくる努力をして、私は、店の奥に向かった。

 たすくさんは、それ以上尋ねてはこなかった。
 背中にか細い視線を感じながら、階段をのぼる。

 私、ちゃんと笑えていたかしら。
 笑い下手は、こういうとき損なのよね。

 着替えを終えて、再びフロアに降り立ったとき、私は、いつもの私でいられるかしら。

 あの、見透かすようなとび色の瞳を前にして、平然と受け答えができるかしら。

 部屋の扉を開けた途端、先程出ていったお姉ちゃんの背中を思い出して、全身に恐怖が宿る。

 私は、大丈夫。

 そう心の中で呟いて、震える体を自分の腕で抱きしめた。

 これまで幾度となく見てきた『悪夢』に頭の中のスクリーンが侵食されていくことに耐える為に……。
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