彼女を10日でオトします

 白い飛沫。川の流れは凄まじく、一隻のボートは右へ左へ傾く。
 ボートの縁にしがみつくのがやっとの、私とお姉ちゃんと貴兄のお母さん。
 流れに揉まれながらも、ボートは川岸に近づく。
 そこには、二人の人影があって……。


「キョン?」

 部屋の外からかけられた優しい声色に『悪夢』は中断された。
 頭の中がひりつく。

「どうかした? 入ってもいい?」

 私は、返事をしなかった。
 入ってはいけない理由なんてないけれど、ひとりでいたい、しかし、ひとりでいればまた『悪夢』が再開されそうで怖かった。
 どう答えたらいいのかわからなくて、声が出なかったのだ。

 ノブが回り、金属がこすれる控えめな音がドアから聞こえた。

 ドアがゆっくりと開き、たすくさんの細い体の線を見上げる。

 そこでようやく、自分がドレスのまま、フローリングにへたり座っていたことに気がついた。

「キョン、泣いてるの?」

 泣いてる?
 頬に手をやると、暖かいままの水分の筋が縦に一本入っていた。

 泣いているつもりがなくても、涙の筋があれば、泣いていたことになるのかな?

「泣いているつもりはないわ」

 声は、正常なものが出た。
 嗚咽も混じってないし、かすれてもいない。至ってまともな声。

 部屋の中に入ってきたたすくさんは、私の対面に腰を下ろした。

 腕を組んで立てた両膝の上に乗せ、そこに顎を乗せてじーっとガラス玉のような瞳で私の瞳の中を覗きこむ。

 そう、たすくさん特有のあの瞳。私の心が見透かされそうな光を放つ瞳をしていた。

 しばらく、そのまま私の眼球を直視していたが、不意にそのまん丸な目を細め、口角がやんわりとあげた。

「そっか」

 そう、一言口にして、私の肩を引き寄せた。
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