彼女を10日でオトします
 どれがいいんだろう……。

 どの本が初心者向けなのかすらわからないわ。

 とりあえず、『簡単! 10分レシピ』なるものを手にとって、たすくさんが待つテーブルにもどる。

「これでいいかしら」

 たすくさんの対面に座って、手渡すとたすくさんは「ありがとう」と言ってそれを受け取った。

 たすくさんは、手に取った本を開くわけでもなく、畳んだままの本を眺める。
 そうね、そのレシピ本の厚さを確かめているっといった感じかしら。

「キョン、ちょっとばかし俺を放っておいてね。うーん、これくらいだと3分かからないくらいかなあ、いい?」

 いいもなにも、声を掛けるなと言われたらかけませんけど。永遠に。
 それでも、尋ねられたので、一応「ええ」と答える。

 私の答えに、爽やかな笑顔で答えると、テーブルの上に本を置いて、表紙をめくった。

 パラ、パラ、とページをめくる音のみが聞こえる。

 どう表現したらいいのかしら。
 とにかく変なのよ、たすくさん。

 視線は、めくったページに落としてある。そう、ここまではいいの。
 問題は、その視線が、文字を追ってないってこと。

 眺めてる。何かに例えるとしたら……そう。絵画や写真を眺めてるような感じ。
 読んでいるとは言いがたい。

 いつもは澄んでいる瞳に霧をかけ、1ページ1秒弱のペースで無表情に一枚一枚めくる。

 たすくさんの言ったとおり、背表紙に至るまで3分はかからなかった。

 本を閉じ、静かに瞼を下ろし、たすくさんは、人差し指で宙に何かを描くように小さく上下左右、無造作に動かした。

 変なの。とうとう気が狂っちゃったのかしら?

 
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