彼女を10日でオトします
 それからすぐに、たすくさんは焦点を合わせるように数回まばたきをして、私に本を差し出した。とびきりの笑顔で。

「はい、キョンお待たせ。
この本に載ってる中で、何が食べたい?」

 と、変なことを言い出した。

「はい?」

 本を受け取りながら聞き返す。

「その中から、食べたいものを選んでね」

 聞き返した意味は無く、たすくさんの返答はさらに私の頭を混乱させた。

 わけのわからないまま、『簡単! 10分レシピ』を開く。

 私が選んだものを作ってくれるって事なのかしら。

 パラパラめくり、目に留まった料理の写真を指差した。

「これ……」

「オーケイ。キョンって渋いのが好きなんだねえ。
あ、その本はもう片付けていいよ。ありがと」

 たすくさんは、立ち上がる。

 片付けていいと言われても……。

「ねえ、どういうこと?」

 私の精一杯の問いに、たすくさんは冷蔵庫の中を覗きながら、

「キョンにいつか言わなかったっけ?
俺の頭は欠陥品だって」

 いつもの飄々とした口調。
 そして豆腐と牛肉と白滝とインゲンを取り出すと、振り返って私を見た。

「俺の頭はね、『忘れることができない』の」

 そういいながら、バタン、と後ろ手で冷蔵庫の扉を閉めた。
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