彼女を10日でオトします
「どうして、キョンはさ、やっかいだと思ったの?」

 私に背中を向け、たまねぎの皮をむきながら、なんてこと無いように尋ねるたすくさんは、今、どんな表情をしているのだろうか。

「忘れてしまいたいことも、忘れられないってことでしょう?
それって、きっと、すごく辛いんじゃないかなって思ったのよ」

 ざく。たまねぎに包丁が入る音。

「正解。便利なことも多いけどね。
あー、くし切りってなんだよー。
切り方もちゃんと書いておけよなあ。
やば……たまねぎってこんなに目にしみるんだあ」

 すごく、すごく、明るい声。
 普段よりワントーン高い声に、努めて明るい声を出そうとしているんだな、と感じた。

 無理……してる?

 たすくさんは、カッターシャツの袖で目をごしごし拭う。

 今、私、すごく見たい。たすくさんの数字。
 『6』なのか『16』なのか。
 『楽しい』のか『悲しい』のか。それとも、違う数字なのか。

 皮肉。今まで、数字なんて見たいと思ったことなんて無かった。
 おねえちゃんは、「便利よねえ」なんていってたけど私にとって、人の頭の上と肩口にみえる数字の暗示なんて『やっかい』なものでしかなかった。

 知りたくもないのに、相手の気持ちを知ってしまう恐怖と罪悪感。

 だけど今、どうしても、たすくさんの『感情』を見たい。
 本当に皮肉だわ。
 こんなに見たいと思っているのに、たすくさんの数字だけが見えないなんて……。

 どうしてなの? どうしてたすくさんだけ見えないの?
 今まで、胸の奥に押し込めていた疑問が、またぶり返す。

「あーあ、目ぇいてえ……。
俺、キョンのこと、好きになってよかった。
ほんと、そんなかんじ」

 たすくさんは、小さな声で呟いた。

 上を向いて、また、目をごしごし拭いながら。
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